日本の誇り!坂口志文氏がノーベル生理学・医学賞受賞―免疫の「ブレーキ役」制御性T細胞の発見が医療に革命をもたらす

日本の誇り!坂口志文氏がノーベル生理学・医学賞受賞―免疫の「ブレーキ役」制御性T細胞の発見が医療に革命をもたらす

2025年10月6日、スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表した今年のノーベル生理学・医学賞は、私たち日本人にとって非常に誇らしいニュースとなりました。大阪大学の坂口志文特任教授が、米システム生物学研究所のメアリー・ブランコウ氏、米ソノマ・バイオセラピューティクスのフレッド・ラムズデル氏とともに受賞したのです。その受賞理由となったのが、免疫反応を抑制する「ブレーキ役」としての「制御性T細胞」の発見です。

制御性T細胞とは何か?免疫システムの「ブレーキ役」

私たちの体には、外部からの病原体や異物から身を守るための免疫システムが備わっています。しかし、この免疫システムが暴走してしまうと、自分自身の細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」を引き起こしてしまいます。ここで重要な役割を果たすのが、坂口氏が発見した「制御性T細胞(Treg)」なのです。

国立がん研究センターの研究資料によれば、「制御性T細胞は、健常人の末梢血にあるCD4+T細胞のうち概ね5%程度含まれる免疫抑制細胞で、自己免疫疾患の発症を防ぐために自己に対する免疫応答を抑制する役割を持つ細胞」と説明されています。つまり、免疫システムが過剰に働きすぎないよう調整する「ブレーキ役」として機能しているわけです。

カロリンスカ研究所は今回の受賞について、「免疫系がどのように制御され、抑制されているかの基礎的な発見をし、がんや自己免疫疾患などの新しい治療法の開発を進めた」と高く評価しています。

坂口氏と米国研究者たちの共同研究が切り開いた未来

今回の受賞は、坂口氏単独ではなく、米国の研究者2名との共同受賞となっています。それには理由があります。米国の2氏は自己免疫疾患に関わる「Foxp3」という遺伝子を発見し、後に坂口氏らがこのFoxp3が制御性T細胞の成長や働きに欠かせないことを突き止めたのです。

このように、日米の研究者たちが協力して一つの大きな発見を成し遂げたことは、国際的な科学研究の重要性を示す素晴らしい事例と言えるでしょう。授賞式は12月10日にストックホルムで開催され、賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億7000万円)で、受賞する3人で分け合います

医療への応用―自己免疫疾患治療とがん治療への期待

制御性T細胞の発見が、なぜこれほどまでに画期的なのでしょうか。それは、この発見が実際の医療現場で様々な治療法の開発につながっているからです。

自己免疫疾患への応用

中外製薬と大阪大学の共同研究チームによれば、「Treg細胞療法は、がん領域での免疫チェックポイント阻害剤やCAR-T細胞療法と並び、自己免疫疾患領域で注目される免疫治療のアプローチで、患者さん由来の制御性T細胞を生体外で増殖させ、体内に戻して免疫機能のバランスを正常化させる」治療法として期待されています。

実際の臨床試験では、骨髄移植に際して制御性T細胞を投与することで、移植した骨髄中のT細胞が患者を攻撃する「移植片対宿主反応」を抑えることができることが確認されています。また、子供の1型糖尿病に対しても、制御性T細胞を体外で増やして戻したり、体内で増やすという試みが進んでいます。

がん治療への逆転の発想

興味深いことに、がん治療では全く逆のアプローチが取られています。日本がん免疫学会の解説によれば、「がん細胞は制御性T細胞を利用して免疫系からの攻撃を回避しており、悪性黒色腫や肺がんなどの多くのがん微小環境では、活性化して免疫抑制機能が強くなった制御性T細胞がCD4+T細胞の20から50%に増加している」のです。

つまり、がん細胞は制御性T細胞を「盾」として利用し、免疫システムの攻撃から身を守っているわけです。そこで、がん治療では制御性T細胞を減らしたり、その働きを抑えたりすることで、他の免疫細胞にがんを攻撃させやすくする方法の研究が進んでいます。阪大病院では、がん治療として制御性T細胞を減らし、その後ワクチン療法を行うというような取り組みがなされています。

日本人のノーベル賞受賞、2年連続の快挙

今回の坂口氏の受賞は、日本人にとって特別な意味を持ちます。時事通信の報道によれば、日本人のノーベル賞は昨年、平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に続いて2年連続となります。個人では米国籍取得者を含め29人目、生理学・医学賞は2018年に京都大の本庶佑特別教授が受賞して以来、7年ぶり6人目となります。

坂口氏は現在74歳。長年にわたる地道な研究が実を結び、人類の健康と医療に多大な貢献をもたらしたことが評価されました。制御性T細胞の発見は、アレルギーや1型糖尿病などの自己免疫疾患、がんといった病気の新たな治療法の開発に道を開き、今後さらに多くの患者を救う可能性を秘めています。

まとめ―未来の医療を切り開く「ブレーキ役」の発見

坂口志文氏のノーベル賞受賞は、単なる一つの研究成果の評価にとどまりません。免疫システムの「ブレーキ役」である制御性T細胞の発見は、自己免疫疾患からがん治療まで、幅広い医療分野に革命をもたらす可能性を持っています。

今後、制御性T細胞の働きをさらに詳しく解明し、それを操作する技術が発展すれば、ぜんそく、関節リウマチ、1型糖尿病といった自己免疫疾患の根本的な治療法が確立されるかもしれません。また、がん治療においても、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることで、より効果的な治療法が開発される日も近いでしょう。

私たち日本人にとって、坂口氏の受賞は大きな誇りであり、同時に科学研究の重要性を改めて認識させてくれる素晴らしいニュースとなりました。これからも日本の研究者たちが世界をリードする発見を続けていくことを期待したいですね!


参考URL一覧

  1. ノーベル生理学・医学賞に坂口志文氏ら、免疫反応抑える制御性T細胞 – 日本経済新聞
  2. ノーベル生理学・医学賞に坂口阪大特任教授と米国の2氏 制御性T細胞の発見で | Science Portal
  3. 坂口志文氏らにノーベル賞 免疫抑制「制御性T細胞」発見 – 時事ドットコム
  4. がんと制御性T細胞 | 国立がん研究センター 研究所
  5. 細胞性免疫・制御性T細胞 – 日本がん免疫学会
  6. 「制御性T細胞」をつくる・増やす-中外製薬と大阪大学免疫学フロンティア研究センターの共同研究

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